水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

鰻池(鹿児島県指宿)

噴火噴出物が堆積する南東側から見た鰻池の神秘的な湖面(2022年撮影)

九州南端の「恐山」を思わせる台地の瞳

誘われるように湖畔集落へと通ずる一本道を上っていくと、青い湖面がうずくまっていた。
霧島錦江湾国立公園に立地する天然の火口湖。60mもの水深が醸す深い水の色と、円形の切り立った湖岸が神秘感を募らせる。形態としては池というより湖である。
全国初の国立公園であり、鰻池はその特別地区にも指定。
西郷隆盛も逗留した鰻温泉の集落がある。死者と交流する場としては本州最北の下北半島恐山の宇曽利湖が有名だが、九州の南端に近いこの湖でも、肉親を亡くした人々が1月に地蔵堂に参詣する「ウナッメイ(鰻詣)」という風習が残っている。
岸に立てば、どこはかとなく漂う寂寥感が身にしみる。

鰻池(2022年。右端のみ2012年)


 

成因と形態

周囲長4kmの火口湖。最大水深61m。
噴火噴出物が積もった南東部以外の岸は急崖となっている。
隣にあるより大きな池田湖は一見、相似した形態に見えるが、成因は異なるカルデラ湖。

鰻池。奥に見えるのは池田湖

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かつては上水道水源の機能も

南東岸に取水設備があり、「鰻池は、◯◯の大切な上水道水源です」との看板。◯◯のところはシールで目隠しされていたが「指宿市」と読めた。指宿市以外にも水を供給するようになったのか、なぜ隠す必要があったのか気になる。



 

池伝説

鰻池には、池名の由来とも思われるかなり変わった池伝説がある。
その昔、農業用水を池から引こうと水路を造ったところ、池ヌシの巨大ウナギが水路に横たわって水の流れを妨害。村人はウナギを蒲焼のように縦割きに切り裂いて対抗するも、ウナギの方は半身となりながらも池に逃げ込んで生きのびたという。



 

釣り

50上の巨べらスポットとして昭和50年代にブレイクした。指宿市長名義で設置された看板には、遊漁者の撒き餌およびバクダン釣りは禁止、とあった。バクダン釣りとは握りこぶし大のダンゴ状にした餌を投入する釣法。
2022年の訪問時は取水設備まわりに釣り禁止看板があった。


 

鰻温泉と「スメ」

池畔の鰻温泉は江戸時代に開湯。下野した西郷隆盛が逗留した地でもある。
集落内には「スメ(巣目)」と呼ばれる天然の蒸し釜が数ヶ所あり、各家庭用のほか、観光用に「スメ広場」として開放されている公衆スメもある。肉、魚は匂いがつくため投入禁止。
スメ使用料は300円。




 

駐車場と案内板

2012年の初訪時は小さな湯治場が池に寄り添っているだけで、ちょっと怖いぐらいの雰囲気が漂う鰻池だったが、10年後に再訪してみると立派なトイレ付き観光駐車場と案内板が増設され、すっかりウェルカム感あふれる池になっていた。
この駐車場では、コロナ対策として車中泊はやめてほしいと言ってきた車中泊の北海道ナンバーがいた。何でも住人から依頼されて県外者が車中泊しないよう見張っているのだそう。ほどなくパトカーがやってきて北海道ナンバーをじっと見ていた。しばし立ち話した駐在さんも、地元の人ではなかった。
そのあとスメで地元の人とも話をしたが、県外者を嫌がっているふうでもなかった。やっぱり鰻池は不思議だ。




 

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