水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

群生海(茨城県牛久)

ぐんじょうかい。牛久大仏。
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世界一の大仏の足もとでのたうつ、世界一アグレッシブな鯉?

ギネスブックに地上高120mの世界一の大仏として登録されている牛久大仏。入園料を払って園内に入ると、大仏を正面に見て左側に芝生に囲まれた円形の池がある。「群生海」という池名は少々変わっているが、仏教用語で生きとし生けるすべての者、という意味。

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群青海を横目に、そのまままっすぐ大仏様の方に近づいていくと、その巨大な台座の右側の足もとに、もうひとつ別の池がある。
ここに、そのアグレッシブさによって大仏様にも劣らず有名な鯉たちがいるらしい。
コンクリート底の浅い小池だが、一部が入り江状のスロープになっており、人影を察知した鯉たちが早くも背びれすれすれのところまでせり上がって待機している。

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ポールポジションで待機している二尾は、特に命知らずな猛者として、牛久太郎、牛久次郎と名付け、その勇猛ぶりを愛でてみることにした。
手ぶらで行っても通常の待期ポジションから動こうとしない。水面下ぎりぎりから何十もの目がこちらをじっと伺っている。
後ろにある100円のエサ販売台に向かって財布を取り出すやいなや、彼らの動きに変化が生じた。微妙なポジションどりが慌ただしくなっている。

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水ぎわぎりぎりのところに数粒のエサを置いてみる。這い上がってくるかと思いきや、太郎次郎含めて誰も動こうとしない。
考えてみれば当たり前である。彼らにとっては水の外は死の世界。絶壁の岸であれば外界にむかって誤って転落ならぬ、昇段してしまう危険性も少なく、彼らにとって安全この上ないが、この甘く囁きかけるような、やさしく甘いスロープこそが、鯉たちにとって死の匂いが濃厚に漂う深淵なのである。その瀬戸際に見せられて、過去にいったい何人の冒険野郎が命を落としてきたことだろう。
水深5cmほどのところ、岸から40cmほどのところにエサを浮かべると、太郎と次郎が競い合うように、せり上がってきた。
前がつかえてせり上がれない衆生の渦中にも、ばらばらっとエサを投げてやるが、これが混乱を生みだした。悪気はなく、大仏様の足もとだけに公平を期したかったのである。
見ていると鯉はせり上がる際に前進はできるが、後退はできないらしい。

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また、口が下向きについているものだから、水面に浮いているエサを吸い込むためには、頭が完全に水面上に出るところまで、せり上がらなければならない。しかしそこまで上がってしまうと、胸びれまで水面上に出てしまう。
これが生死を分けるぎりぎりのライン。というのも、彼らはせり出すだけせり出すと、ぐるっとUターンをして尾びれの推進力で死の世界からの離脱をはかるのだ。ヒレで水をかいてUターンができる、ぎりぎりのデッドラインと、エサが浮いている位置との間合いを見極め、進むべきか待期すべきかを判断しているようだった。
それでも次第にヒートアップしてくると、待期ポジションも大胆になってくる。太郎のこの待期ポジション。目が水面上に出ている。

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そして下は、みごとなせり上がりを見せる太郎。

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鯉たちのあいだで「死の領域」と呼ばれる水深1cmライン上で待期ポジションがとれる鯉は数少ない。なかでも、体のほとんどを水面上にさらけ出す次郎の待期ポジションは、著名クライマーたちのあいだでも伝説となっている。大仏様が彼を選んだのさ、とは、太郎の弁。

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それでも、せり上がりの勢いと大きさ、迫力では太郎に分があるように思う。
太郎、かるくK点を超えてきました〜、悔しそうな次郎、とか妄言しながら、エサをぽつりぽつり放って鯉たちと戯れていると、いつのまにやら周囲に人だかりができていた。
鯉たちに別れを告げ、立ち上がった。

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駐車場。
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駐車場無料。入館料必要。ミニ動物園あり。マークした場所は駐車場。


<写真アーカイブス>
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