【ろうかくこ。水内ダム】
発電ダム湖としては、日本でもっとも文学的?
ダム名、貯水池名ともに難読。湖名は「ろうかくこ」と読み、ダムは「みのち」。
この難しい湖名の由来は、『或る女』で日本文学史に名を刻む有島武郎の弟で、画家の有島生馬がこの貯水池を前に激賞した名文による。
水清冽青きこと琅玕(ろうかん)の如く
景延曲鶴の將に飛翔せんとするに似たり
琅鶴の稱ある所以なり
画家ではなく作家かと思うような名調子だが、有島生馬は学習院の学生だったころ、のちに文豪となる若き志賀直哉らとともに小説を書いていた。「白樺」にも参加し、同誌でセザンヌを初めて日本に紹介したという功績もある。
「琅鶴湖」を簡単にいえば、宝石のような水の色をし、飛翔する鶴を思わせる形状をした湖というような感じだが、正直、期待が大きすぎただろうか。はたまた土木技術の発達でもっと厳しく美しい立地にあるダム湖が増えたせいか、訪れてみて感銘を受けるほど迫るものはなかった。
むしろ15門?のラジアルゲートをもつ堰体まわりの工作物の方に目がいく。東京電力の発電用ダムであるが、湖というより犀川の川幅が少し広くなった感じ。犀川といえば大詩人・室生犀星のペンネームにも一字使われている「うつくしき川」かと思ったが、ここ長野の犀川とは別の川だった。同じ川だったら文豪結集といいたいところだが、それでも湖畔には有島生馬の記念館や佐藤春夫の詩碑もあるので十分か。
佐藤春夫は池の命名者としても第一人者というか、同県内の佐久にある仙禄湖、和歌山県のゆかし潟も彼が名付け親である。
文人が命名した事例としては、ほかに明治時代の儒学者・毛利空桑による大分県由布院の金鱗湖(きんりんこ)もある。
このダムをはじめ、東京電力管理ダムの一部におけるダムカード発行にクラウドファンドを募ったことは新しい潮流といえる。
ダムの上流180m、下流365m区間は釣り禁止。
1.2km北東に道の駅あり。