水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

すずらん湖(長野県麻績)

大沼。大沼ダム。大沼池。
f:id:cippillo:20180508092944j:plain

「池」「沼」「湖」の名称について、深く考えさせられた。

「すずらん湖」という、ほのぼのとかわいらしい愛称の人造湖であるが、現地に立っている案内板によると本名は「大沼」となっている。
この案内板には「深い谷をせき止めて造った<せきどめ湖>である」と記されているが、谷部に人工的に造られる貯水池は「谷池」と呼ぶことはあっても、なぜか「せきどめ湖」とは呼ばない。
「せきどめ湖」という場合、土砂災害や噴火といった自然現象による天然ダムに対して使うのが通例ではないかと思う。
また、日本語では人工の湖沼に対する固有名詞としては「池」を付すのが一般的で、巨大ダムで水深20mを越えるような深いものでも、固有名は「●●貯水池」となる。「貯水湖」と呼ぶ例は皆無ではないが、なぜか、ほとんど見ない。
「●●ダム湖」という固有名っぽいものに関しては、正式な貯水池名や愛称が付けられていない場合に、便宜的にそのように表記されているのではないかと思う。「●●人造湖」という固有名も、見たことはない。
もっとも日本人にとっては「湖」の方が「池」よりも語感がいいらしく、大きな貯水池には愛称として「●●湖」と名付ける例が多い。

f:id:cippillo:20180508092946j:plainf:id:cippillo:20180508092947j:plain

「湖」「池」「沼」の区分は、水深に依拠するという説もあるが、浅く小さな池でも観光要素が強い場合には「●●湖」を愛称として採用する事例も少なくない。
さて、ここ大沼であるが、愛称の「すずらん湖」は周囲500m級で「湖」と呼ぶには小さいが、水深は15m以上あるので「湖」と名乗る権利がないとまでは言い切れない。
しかしこんな深い池に対して、正式名称が「大沼」とはどういうことであろうか。
深さ指標においては「沼」は「池」よりも浅く、語感としてもズレはない。たいがい水深1〜2mが沼のイメージ。
茨城県の牛久沼周辺エリアのように、地域によっては「池」を使わず「沼」名が主流の土地もあるが、少なくともここ聖高原周辺エリアでは正式名は「池」がほとんどであり、「沼」を使う文化圏ではない。
このすずらん湖こと大沼だけが、ひとり超然と根拠なき「沼」をうたっていて、たいへん興味深い。


f:id:cippillo:20180508092948j:plain
ダムスペックを満たす高さ17mのアースダム。

ハイドロックでカーテンクラウトなダム?

急峻な地形の中、強靱で水漏れしない特殊工法「ハイドロック、カーテンクラウト」を採用して築堤されたと案内板に誇らしく記されているが、特殊すぎる工法なのか調べても詳細が分からない。というか出てこない。

「ハイドロック」→「ハイドロリック」
「カーテンクラウト」→「カーテングラウト」

いささかの誤字としてハイドロリック・カーテングラウト(カーテングラウチング)であれば、堰体を据える左右、下の岩盤にカーテン状にコンクリートを流し込む基礎工事で、湛水した際に水が堰体を迂回して漏水するのを防止する工法として広く行われているようである。
自慢するほどの特殊工法かといわれると微妙な気もするので、誤字ではないのかもしれない。
案内板が興味深すぎて妄想ばかり広がってしまったが、池は聖山の湖沼群のひとつで、聖湖から聖山への連絡道から一本、枝道に入ってすぐのところにある。
池へアプローチする枝道の入口のところに周辺案内図や舗装駐車場があるほか、池畔には案内板と駐車スペースも。
アースダムの堰体は高さ17mもありダムスペックを満たしており、『ウィキペディア』では「大沼ダム」の名が記載されている。
そして『ダム便覧』では、初めて見る「大沼池」という名称で登録されていた。
ああ、これでわれらが大沼池ダムすずらん湖は、沼、池、湖、ダムのすべての名を制覇した日本唯一の水辺となったわけである。

f:id:cippillo:20180508092943j:plainf:id:cippillo:20180508092945j:plainf:id:cippillo:20180508092949j:plainf:id:cippillo:20180508092950j:plain
釣り禁止標識。右は周辺案内板。

f:id:cippillo:20180501175323j:plain
聖高原の湖沼めぐりマップver1.1(水辺遍路)


マークした場所は駐車場。