水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

三成ダム(島根県奥出雲)

みなりだむ。
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日本最古のアーチダム、ということで。

砂鉄も流れる斐伊川中流を堰いた発電および砂防を目的とした県営ダム。
2015年に土木遺産にも認定されたこともあり、「日本初のアーチダム」という華々しい謳い文句でとりあげられる三成ダムであるが、果たしてそう言い切れれるかというと、じつは微妙なところもある。
まず構造として、三成ダムの正式な型式は現地の案内板の記載で「中央アーチ両岸重力式ダム」となっており、いわばアーチダムと重力式コンクリートダムのハイブリッド。
確かに見た目はアーチマニアを唸らせるようなスリリングなソリもなく、むしろどっしりと重厚でさえある。もともとは純然たるアーチとして旧建設省によって設計されたというが、工事段階でアーチを支える岩盤の支持力に疑問が生じ、設計変更されたそうだ。
アーチダムらしさという意味では、両袖にダブルで据えられたスキージャンプ式減勢工の存在に本領を感じる。ただ、スキージャンプが設けられている両翼部はアーチではなく重力式というカルマも背負っている。

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スキージャンプ式減勢工の代表例。一ツ瀬ダム(左)と上椎葉ダム(右)

1950年竣工の三成ダムは、「中央アーチ両岸重力式ダム」というきわめて少ない(というより他にあるのだろうか?)型式においては日本初という点は間違いない。(※三成ダムのダムカードには型式として「アーチ式コンクリートダム」と記されている)
この他に全国で12例しかない「重力式アーチダム」という型式もあるものだから、さらに話はややこしい。なお三成ダムはこの12基の中に分類されていない。(日本ダム協会調べ)
重力式アーチダムといえば、ダムマニアなら即座に1930年に完成した芋洗谷ダム(宮崎県)の存在を思いおこすであろう。こちらを「日本初のアーチダム」とする捉え方もある。
芋洗谷ダムも三成ダムもアーチダムの純血を問うならば、疑義を呈されてもいたしかない部分があるといえそうだ。
では、アーチの純血にこだわる、うるさ型アーチマニアを納得させる日本初のアーチとは、となると、これまた話がややこしい。
水辺遍路が実踏調査で把握している限りでは、1939年竣工の大源太湖(新潟県)の堰堤がいちばん古い。

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これは堤高18mあり、いわゆる日本のダムスペックを満たしつつ、見た目もしっかりアーチしており、まず文句のつけようはなさそうに思えるのだが、管理区分において「砂防堰堤」に属するためダムマニアからはダム扱いされていないのだ。元建設省河川畑でダムを手がけてきた父も「砂防は砂防。あれは別」という姿勢だし、さて、ほんとうの日本最古のアーチはいずこに?

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堰体側からみた貯水池


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インレット側からみた貯水池

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ダムサイト駐車場と案内板

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マークした場所は駐車場。