絶海の孤島。怒濤の地形に生まれた奇跡の池群。
想像を越えた孤島の地形。
沖縄本島の東方約370km。まわりは兄弟島の北大東島が8kmのところにある以外は、どこまでも海が広がる。もうひとつの兄弟島である沖大東島は約150kmも離れている。
海のまんなかにぽつんと二つの島。これは海に隠された地形を知ればさらに驚く。4千メートルの海底からそびえる海中火山の頂上、その二つの双耳峰が北大東島と南大東島。つまり巨大火山の双耳峰の先っぽだけが海の上から出ているかっこうだ。
両島の間はわずか8kmしかないが、海峡の水深は1500m以上。地上ではちょっと見たことのない壮大なツインピーク。
島は長い時間の中で海に沈んだり、顔を出したりしながら、珊瑚環礁を育み、400mもの厚みで大東島の土台となっている石灰岩の地盤が形成された。
いうなれば、まん中がくぼんだスポンジケーキ。
ざっくりいってしまえば、サンゴの死骸でできた島である。中はスカスカ。広がる農地の下には200以上の鍾乳洞が縦横無尽に島の地盤を虫食いにしている。
おそらくは雨水による浸食で、水のたまりやすい島中央部の鍾乳洞が陥没したりして、現在の地形と池群が生まれたのではないかと思う。
この中央カルスト池群と、周辺の農地に点在するファームポンドをめぐって、北へ南へ走りまわる島の時間は最高だった。あちこちに水を得るための工夫や苦労のヒントがころがっている。
島のガソリンスタンドが土日休みということもあり、レンタカーは満タン返却ではなく距離換算で燃料代を別途支払う。
返却時、運転席にもぐりこんで距離計を確認した宿のおかみは(宿がレンタカーもやっている)、距離計を何度も見直し、首をかしげた。周囲20kmの島で走行160km。
「どこ走ってきたの? この島のレンタカー記録だわ」
いやいや、まだまだ走り足りない。この島の池はおもしろすぎます、とも言えず、ただ笑った。
地底で海とつながっている? 神秘のカルスト湖沼群。
こうして島の中央部のまったりくぼんだエリアにカルスト湖沼群が穿たれたかっこうに。人が移住する前から存在する天然の池である。
島北部の大池では、陸封されたマングローブが群生し天然記念物に。世界的にもめずらしい。
現在、各池は水路でつながり、各所に給水場、ポンプ小屋、移動式ポンプ、ホースリールが見られ、サトウキビ畑のかんがいに利用されていた。
島北部の大池の北側には東水門と西水門という二つのゲート付き水門も見られた。
意外な気候。
大東島といえば台風! というイメージがあったが、台風直撃は意外に少ないという。むしろ、島の収入の柱であるサトウキビの栽培では、水の多寡が収量を大きく左右する。だから島の人の雨乞い神事は真剣そのものだし、台風が来るのを心待ちにしているという話も聞いた。
お椀のような地形のため、冷たい空気がたまりやすく、沖縄の島としては異例なほど低気温になる。
年間を通して風は強く、波も高い。現在は島の外輪丘(島では「幕上(はぐうえ)」と呼ぶ。海抜40mほど。)の木々が防風林となって農地や町の生活を守っているが、開拓の歴史の中では農地を増やすために木を伐ってしまったあとに、防風林が必須であると思い知らされ、植林し直したという苦い失敗談もある。
農業を支えるファームポンド。
南大東島は海岸がいちばん標高が高く、中央にいくにつれ低くなる特殊な地形であることは先に述べた。外輪丘(幕上)に囲まれた皿状にくぼんだ平地部は「幕下(はぐした)」と呼ばれている、中央からやや西よりに無数のカルスト湖沼群を抱えており、こういった天然湖の数が少ない北大東島に比べれば、かなり恵まれているといえる。
それでも主産業のサトウキビ農地をかんがいするために、さまざまな苦労をかさねてきた。
コンクリートで固めたファームポンドを建設し、さらに天幕を張ったような円形の「移動式ミニ池」?も農地のあちこちで見かけた。いずれもポンプで送水する。
八丈島からの移民がもたらした水利技術。
一見、池が豊富で水豊かに見える南大東島への移民であるが、過去に何度も失敗に終わり、明治期に八丈島からの移住グループが初めて開拓と定住に成功していた歴史をもつ。
八丈島は離島とはいえ水が豊かな島で、島民は井戸や溜め池築造といった高い水利技術をもっており、南大東島に元からあったカルスト湖沼群をうまく利用したと考えられる。
島内にあるカルスト湖沼群のうち、23湖には池名が付けられているということであるが、権蔵池、栄太郎池、豊作池のように人名もいくつか見られる。これは開拓団のうち、池を発見した人の名前ということだ。
各池は水路で連結されているが、この水路のいくつかは人の手で作られたもののようにも思えた。
それと、ガイドの東さんから聞いた話だが、カルスト湖沼群は表面の数十センチだけが淡水で下は塩水だという。地底でゆるく海とつながり、干満の影響も受けるという驚くべき話。塩水は農業には使えないので、水を汲むにもそれなりの工夫が必要だろう。
また驚いたことに、鍾乳洞の奥深くの地底湖にまで送水管が引き込まれていた。
開拓の歴史のなかでは、農地を増やすために池を埋めたこともあったが、水不足になってしまい、あわてて池を再生させたという失敗談も。
天照大神を祀った大東神社や、奉納相撲場など、沖縄文化ではなく本土に近い文化が見られるのも、八丈島からの移民と関係が深そうだ。
池には外来魚、外来生物も。
南大東島の池には、ギンブナ、ティラピア、グッピー、鯉が生息しているということだ。
大池ではメダカらしき魚の姿も捉えたが、じつはグッピーだったのだろうか。
ファームポンド近くでは、クルマに轢かれた外来種のウシガエルらしき死骸も確認した。
大池の接続水路および淡水池ではティラピアの大群にまみれて黒くて赤いひれを持った正体不明の中型魚を数個体見た。調べてみたところ、ティラピアの一種で、繁殖しているナイル種とは別の種のようだ。警戒心が強く、すぐ水草の間に隠れてしまう性質など、他のティラピアとは明らかに行動が異なっていた。
地元の人は鯉じゃないかと言っていたが、どちらかといえばオスカーに見えてしまう。機会があれば、釣査をしてみたい。
世界の洞窟探検家が集まる地底の秘境。
200以上の鍾乳洞が地下にうごめく南大東島。
ガイドさんによると、地底湖の湖面高は海水面と同じで、潮の満ち引きまであるという。
正月は日本洞窟学会の研究者、探検家たちが南大東島に結集し、より奥の未知の洞窟へと分け入っていくとか。
ガイド付き有料ツアーで地底探検を楽しむことができる。要予約。
南大東島の池めぐりガイド
島の表玄関、大東空港。
島悲願の大東漁港。断崖をくり抜いて。
漁港は大東島の悲願でもある。南は早かったが、北大東島は2019年になってようやく漁港が完成した。
島池の情報収集(1)島まるごと館
島池の情報収集(2)ふるさと文化センター
カルスト湖沼群のガイド付きカヌーツアー
大東島の食べどころ、見どころ。
掲載している南大東島の池。
名前が付いている池が23湖あるという。
- 大池(沖縄県南大東)★★★沖縄県最大の天然湖。天然記念物。
- 秋葉地底湖(沖縄県南大東)★★★ガイド付き探検ツアーあり。
- 瓢箪池(沖縄県南大東)★★駐車場、トイレあり。
- 淡水池(沖縄県南大東)ティラピア多い。
- 海軍棒プール(沖縄県南大東)★★ダイナマイトで造った遊泳池。
- 塩屋プール(沖縄県南大東)★★遊泳できるように造った岩礁の池。
- 朝日池(沖縄県南大東)幹線道路沿いアプローチ◎
- 権蔵池(沖縄県南大東)大東神社のPあり。
- 月見池・橋水池(沖縄県南大東)
- 水汲池(沖縄県南大東)
- 霞池(沖縄県南大東)
- 鴨池(沖縄県南大東)
- 海水淡水化施設(沖縄県南大東)★島の上水道水源。
- 見晴池(沖縄県南大東)
- 帯池(沖縄県南大東)
- 豊作池(沖縄県南大東)
- 南大東島の標準的ファームポンド(沖縄県南大東)
- 南大東島 本場海岸のファームポンド(沖縄県南大東)
- 星野地区貯水池(沖縄県南大東)建設中だった。
- 栄太郎池(沖縄県南大東)★ウバーレ湖の特徴が顕著。
- アミダ池(沖縄県南大東)★ドリーネ湖の特徴が顕著。
- 大東神社の池(沖縄県南大東)境内の池。Pあり。