水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

御牧原の野池群(長野県東御)

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御牧原は河岸段丘上の台地。はるか20km離れた蓼科山腹の女神湖から導水した水を大小の溜め池に貯水している。

難産の末に生まれた信州一の野池密集エリア。

西にある上田の野池群は「塩田平のため池群」として日本ため池100選にも選定されている信州きっての野池の里だが、それでも池の数は現在では140ほど。対してここ御牧原のため池は200とも400ともされ、数では上まわりそうだ。
一方で塩田平とちがって池名表示や案内板などのウェルカム感は皆無で、農業専従の生真面目さをまとう。かなり以前から、つまみ食いのようにぽろりぽろりと訪ねてみたり竿を出したりはしていたものの、これらの野池を体系だてる糸口はつかめないでいた。
2014年に、みまき野池群を代表する新星として、その名もみまき大池が竣工したことと、池群をめぐる基幹ルートとしての広域農道「千曲ビューライン」の開通は、この地の水をめぐる歴史にとって象徴的なできごとだった。
ここに、これら池群の全体像を俯瞰してみようと思う。

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柵などがなく、古い規制看板に新しい立て看板を寄せるスタイルは、御牧原の野池の典型的なパターン。写真は八反田二号池。


 

もとは皇室御用達の牧場。

御牧原台地は、御牧ヶ原台地、御牧野という呼称もあり、最近では平仮名で「みまき」と表記する例も増えている。土地の歴史は古く、もとは奈良の天皇に馬を献上する勅旨牧に端を発し、いわゆる御料牧場として国内屈指の名馬の産地となる。そう知れば「御牧」という台地の名に合点がいく。
先述したように信州においてここ御牧原は、ため池100選の塩田平の溜め池群に劣らぬ池密エリアであるが、おもしろいことに、池造りにむかない浅間山の噴火堆積物の土壌は千曲川をはさんだ対岸側や小諸市側に広がってはいるものの、この台地では掘れば池ができる粘土質の土壌に恵まれている。生活用水用に個人的に造られた池が、池の総数を押し上げているのもこのためである。
しかし運命のいたずらというか、周囲を大河川とその支流に囲まれた立地でありながら、独立した台地となっていて山からの水が引けず、池はあれども水は空から降ってくる天水に頼るしかなかった。今ならポンプで水を汲み上げるという方法も考えられるが、江戸末期ごろからの開墾では実現も難しかっただろう。

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こういった事情で本格的な水田開発は戦後になってからだが、旱魃の苦労はたえなかった。
昭和の高度成長期に県営御牧原農業水利改良事業が発動し、はるか蓼科山腹に赤沼ため池(現・女神湖)を造成。その水をサイフォン原理も駆使し丘を抜け谷を越えて御牧原台地へと導き、総延長56kmもの水路網をもって台地を潤し、広大な牧場は農地へと生まれ変わった。
池群のなかでは、平成スペックのホープともいえるみまき大池の存在ははずせない。この池によって、農閑期には捨てざるを得なかった水を有効活用する道を拓いた。
水に苦労した土地だけに、「一滴の水といえども金水と心得て」という哲学は、今も御牧原のため池たちに受け継がれている。

みまき大池の岸にある碑には、水をめぐるこの土地の努力と歴史が刻まれている。


 

池岸に大切に保管されている杭と、救助用ロープボックス。

みまき野の野池をめぐっていて、共通点として印象に残ったのは、多くの池に置かれている赤い救助用ロープボックスと、屋根つきの杭置き場。木の杭だけでなく、竹や金属パイプを納めているところもある。
最初は護岸の補強に使うのかと思ったが、屋根まで付けて大切に常設する理由が分からない。浅間山の火山灰の崩れやすい地質のせいか、とも思ったが、防災的な観点からも税金を投入した改修が進む今、池ごとに杭を常設する必要があるのか疑問であった。
杭を池の中に打ち込んで囲うように組んでいる二子池の事例を見て、もしかしたら季節の漁の際に網の足場として使う材なのではないかと思いあたった。海のない長野県では、昔からタンパク源の確保のためさまざまな工夫や食文化を育ててきた土地柄。
そういえば新鋭のみまき大池が完成するまで、この土地で最大の池だったヒマム池では、看板に「養魚池につきつり禁止」と明示されていた。
日常的に溜め池での漁猟が行われているとすれば、各池に配置されている救助用ロープボックスもなんとなく合点がいく。
池ばたに置かれた木材は、のちの調査で稲架(はさ)用であることが分かった。稲木ともいうが、実りの秋に乾いた水田のあちこちに見られる稲藁を干してある木のハンガー、あれのことである。

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杭置き場の設置事例。左のような鉄骨組のものもあれば、右のようにトタン屋根をかけただけのものもある。


釣り人にとっては宝の山を目の前になすすべなし。

見てまわった池のすべてに大小かかわらず徹底的に関係者以外立入禁止の共通看板が掲げられていた。設置は最近と思われる。
質よりも量でということか、完全な埋め込み形ではなく、立て看板形式。既存の古くなった看板にくくりつけたり、ガードレールに結わえ付けたりといった設置方法。ひとつの池にひとつの看板を設置するケースが圧倒的なため、少し大きめの池の場合は看板が目に付かないこともあるので注意が必要だが、そもそも御牧原で堂々と遊べる池は、もうなさそうだ。
人がアクセスしやすく規模のある池については、現状でも池固有の釣り禁止看板が設置されており、違反者が減らない池から釣り禁止の明示や柵、フェンスの設置へと進んでいく可能性がある。

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緊急用救助救助ロープのボックス。このボックスは御牧原野池群に共通してよく見られる。写真は瀬喜池。

余計な工作物のない素朴で雰囲気のいい池が多勢なだけに残念なことである。違反者に対して警察と連携して不法侵入罪に問うまでの強硬な姿勢はなさそうだが、地域一丸というところに強い警告の意図は読み取れる。ただ、釣り禁止自体を謳う場所は少数なのが不思議である。
あるいは釣りを趣味にする農業従事者に配慮したものかもしれない。(隣の上田エリアでは関係者は釣りオーケーという池もあった)
地方では農作業後に自分の管理する池で釣りをする農家がいるケースもあり、そういった人も含めて土地改良区全体の意見がまとまらないと地域一帯を釣り禁止一色で塗りつぶすことはできない。へらぶな釣りのさかんな地域では釣りに対して寛容な池が多い理由である。

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御牧原から少し離れた立科土地改良区の立て看板。形式は酷似するものの御牧原にはない「つり禁止」の文字が追加されている。
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主要な池については、特製の看板で釣り禁止が明示されている。左はみまき大池、右は明神池。


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明神池を擁する芸術むら公園は駐車場も完備。

水辺めぐりとレジャー要素。

バス釣りなどで野池マニアが入釣することもあるが、レジャー要素をもった池はほとんどなく、アクセスしやすい池は釣り禁止が多数。
御牧原から少しはずれるが水辺公園としては西部に明神池と大之池を擁した芸術むら公園があり、駐車場完備で散策もしやすい。
エントリーとしては、みまき大池が駐車スペースもあり分かりやすい。ただしいずれも釣り禁止。
また、拠点としては道の駅みまきが便利だろう。

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道の駅みまきと案内板。


 

掲載している御牧原の水辺。(東御市内外の池も含む)

  • 明神池(長野県東御)★★西部の基幹ため池。芸術村公園。釣り禁止。
  • みまき大池(長野県小諸)眺望よし。釣り禁止。
  • ヒマム池(長野県小諸)養魚池で釣り禁止。
  • 大之池(長野県東御)水深10m!釣り禁止。
  • 金原ダム(長野県東御)県営多目的ダム。釣り禁止。
  • 新池(長野県東御)釣り禁止。
  • 上田りんごソーコの池(仮称)(長野県東御)
  • 八重原の野池1(長野県東御)
  • 八重原の野池2(長野県東御)
  • 瀬喜池(長野県東御)立入禁止看板あり。
  • 八反田二号池(長野県東御)立入禁止看板あり。
  • 馬場池(長野県立科)釣り禁止。
  • 御牧原てらすの池(仮称)(長野県東御)釣り禁止。
  • とや原の池(仮称)(長野県東御)立入禁止看板あり。
  • 二子池(長野県東御)★立入禁止看板あり。
  • 所沢砂防ダム(長野県東御)
  • 鏡池(長野県東御)★★池の平湿原の池塘。
  • 中山翁碑の池(仮称)(長野県東御)立入禁止看板あり。
  • 笠取峠の池(仮称)(長野県立科)釣り禁止。
  • 横堰調整池(長野県東御)立入不可。
  • 前橋池(長野県東御)立入不可。
  • 和池(長野県東御)魚類検査のため立入禁止看板。
  • 四京大池(長野県東御)立入禁止看板あり。
  • 鶴の池(長野県東御)


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