水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

黒部湖(富山県立山)

黒部ダム。黒四ダム。

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黒部ダムは200m近い堤高をもつ日本一のダム。

観光放水が開始される6月末からが黒部ダムのハイシーズン。

毎年6月ごろになると、駅などで黒部ダムを大写しにした観光ポスターを見ることになる。今年も6月26日から大迫力の観光放水が始まった。高さ200m近くものコンクリート壁をオーバーハングさせたアーチダムは、水力発電用だけでなく、日本すべてのダムで日本一の高さを誇る。
ここ黒部ダムについて今さら語る必要はないだろうが、個人的におもしろいと思ったのは、このダムの天端が立山黒部アルペンルートの避けて通れぬ絶対的なコースになっていることだった。
ダムに興味があろうがなかろうが関係なく、雨だろうが雪だろうが高所恐怖症であっても、雪の大壁を含む日本屈指の観光ルートをたどる以上、この秘境ダムの天端を通らざるを得ない。
山と雪が深すぎて、一般の道路はいっさいダムに通じていない。工事の際の建設資材運搬用に掘られた5.4kmの関電トンネルを、観光客満載で縦列を組んだトローリーバスが往復している。ダムの対岸側は、やはり地下を進むケーブルカー。陸路はない。なお、トローリーバスは2018年を最後に退役するということで、最後の年に乗ることができたのは幸いだった。次シーズンからは電池式のバスになる。

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地下駅で車列を組んで待機するトローリーバス。2018年シーズンを最後に退役する。右は黒部ダムカレー。

貯水池の黒部湖は「ダム湖100選」。

ダム天端と展望所、遊覧船といった規定コース以外は、獣なみの体力でもない限り入り込めない黒部湖。日本離れした豪快な景観で、ダム湖100選にも選ばれている。
ラッシュアワーなみの混雑とシャワーのような外国語、そして多額のコストと時間を要するわりには、ゆっくり水辺に親しめるような場所でもなく、もともとメジャーが苦手という意識もあってついつい初訪問を先延ばしにしてきてしまった。
飛行機には乗れず、電車やバスが極端に苦手という体質もあって、なかば義務感に背中を押されての訪問だったが、とはいっても200m近い未体験のアーチの迫力いかばかりか、と楽しみがないわけでもなかった。
しかしいざ、目の前にしてみると、200mがもたらすはずの差し迫る驚きはなかった。周辺の景観が豪快すぎて堰体の高さが引き立たないのかもしれない。100mクラスでも身がすくむほど高く見えるようなダムもある。
それにしても、なんという人の多さ。観光地としては日本一成功しているダムでありながら、誰もがただ巡礼者のように通り過ぎていく。時おり流れが淀むのは、カメラやスマートフォンの腕をのばす人。
しかしそんなことも含めて日本一のダムなんだなあと思う。山好きは口をそろえて富士山を悪くいう。黒部ダムも富士山もただ恬淡と日本一なだけで、玄人はだしを鼻白ませる通俗性を与えているのは別のものだ。
黒部ダムは初めてという人には、ぜひ事前に映画『黒部の太陽』をおすすめしたい。また、「NHKのプロジェクトX」にも別視点で採りあげられている。
関電トンネルの難所中の難所「大破砕帯」を通過する際には、ライトアップされた青い光に目がうるまずにいられない。黒部ダム建設の170余名の殉職者のうち多くは、ダム建設資材を運ぶための関電トンネル工事で亡くなっている。
堤高日本一の黒部ダムだが、堰体の長さにおいては、ダムスペックを満たすものとしては胆沢ダムが日本一。ダムスペック以下のため池では全長4kmの堰体をもつ津軽富士見湖が日本一。

黒部の太陽

黒部の太陽

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豪快すぎる黒部湖の景観。


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ダム見学の起点となる大町のトローリーバス駅と有料駐車場。少し離れたところには無料駐車場もある。


マークした場所は駐車場。