水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

小松大谷池(愛媛県西条)

こまつおおたにいけ。

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小松大谷池の築造妄想図(水辺遍路謹製)

それは明治時代。ダム反対運動の先駆け?

食糧増産の国家的視野に立った事業として大正時代に築造された、愛媛県下3位の規模を誇る溜め池。
国の政策とはいえ、地元住民は決壊の危険を怖れて大反対。土地の名士が説得に説得をかさねて工事着手にこぎつけるも、築造はすべて人の手で完成まで3年もの歳月を要した。
それまでの溜め池は、長い年月、水争いで血を流してきた土地の人々の悲願をのせて造られるものだったが、そもそも西条は水の都と呼ばれるほど水に恵まれている土地だけに、国策として降ってわいた大型ため池プロジェクトに対し、渇望よりは不安が先だったのだろう。そういった意味で、小松大谷池は現代のダム反対の先駆けといえそうだ。

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小松大谷池の全景。


土盛りダム建設でキモとなる堰体の突き固め工程では、「亀の子」と呼ばれる大きな石を8〜10人の地元ご婦人たちの手でかつぎ上げたという。20組の亀の子レディースチーム、総勢200名が毎日、亀の子撞き音頭を歌って働き、見物人も集まったというからさぞかし賑やかだったことだろう。
築90年を経て漏水激しく破堤の怖れも出てきたため平成時代に大規模改修が行われた。このとき大正3年完成の煉瓦造りの樋門は廃止され、右岸側に斜樋、左岸側にコンクリート洪水吐が整備された。土木遺産になってもおかしくない古色蒼然とした赤レンガの樋門は、うれしいことに外観が保存され見学ができるよう遊歩道まで設けられている。
堤高は30m近い巨大な土盛りのいちばん下に、煉瓦造りの樋門がある姿は美しさを越えて。土盛りアースダム好きとして身震いしそうな。堤高につては案内板のひとつには29m、別の記念碑には27mと異なる数字が記されていた。

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中務茂兵衛さんは22歳で家を出て以来、一度も故郷に帰らず半世紀で280回も四国遍路の結願(完全踏破)をした。

遍路の鉄人・・一度も故郷に帰らず前人未踏の280回の結願。

古いお地蔵さんや林立する記念碑のなかに、不思議なものを見つけた。
平成30年、小松大谷池築造100周年の記念植樹の記念碑。この石柱の側面に掘られた文字が、中務茂兵衛さんという江戸末期に山口で生まれた方の紹介で、書き出しが「弘法大師と共に〜」となっていて、よもや空海(弘法大師)さんといっしょにこの池を? ・・と一瞬、脳内でどよめきがが上がったが、そうではなかった。

弘法大師と共に四国八十八ヶ所の道守り遍路の鉄人。

遍路びとの編み笠に「同行二人」(どうぎょうににん)という墨文字を見たことのある人もいるだろう。誰であっても遍路を行う者にはもれなく弘法大師様がついてくるという信仰。
なんでも中務茂兵衛氏、22歳で山口の家を出て以来、半世紀以上ものあいだ一度も故郷に帰らず、遍路コンプリート280回という前人未踏の記録を打ち立てたそうである。
280回というのは、二ヶ月に一回は1,100kmの行程を踏破しなければなし得ない数字。現代の歩き遍路コンプリートの目安は40日とされるが舗装路がほとんど。茂兵衛さんの時代の四国遍路道ははるかに厳しかったはず。一周を終えたら、またもう一周。それを一生やりつづける情熱はなんだったのか。平和のため? 愛のため?
「ただ歩きたかった」
映画『フォレスト・ガンプ』の主人公ならそう言いそうだ。
右岸側ダムサイトには小松大谷池農村公園としてきれいな駐車場、トイレもある。釣り禁止。

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堰体。下の写真は天端。釣り禁止の看板もある。
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大谷池(左)と池の谷池(右)を隔てる尾根がのびるまっすぐ先は霊峰・石鎚山。
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堰体からは小松の町と瀬戸内海が見渡せる。


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駐車場と案内板。
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マークした場所は小松大谷池の舗装駐車場。