水辺遍路

訪れた全国1万1,100の池やダムを独自の視点で紹介

鎌ヶ池(長野県下諏訪)

八島湿原、八島ヶ原湿原。

f:id:cippillo:20181121093535j:plain
太古の広大な沼のうち、わずかな岸部分だけが鎌ヶ池として残っている。

百名山・霧ヶ峰のなだらかな天井桟敷の一角にある八島ヶ原湿原には、名のついた三つの池がある。
大駐車場から始まる木道の遊歩道を西に歩くと、すぐに八島ヶ池、ついで鬼ヶ泉池、そしていちばん奥に鎌ヶ池が現れる。
『日本百名山』をひもといてみよう。

八島平(やしまだいら)と呼ばれる大きな湿地は、以前は沼だったのが次第に蘚苔類の生長によって湿地に変わってきたのだそうで、その沼の名残りが八島池・鎌ヶ池となって一隅に残っていた。ひっそりと静かで、しかも明るい沼であった。
(深田久弥『日本百名山』No.62/霧ヶ峰)

三つの池はかつてはひとつの沼、それどころか今は湿原となっているところまで沼だったとしたら、尾瀬沼と同規模の湖周6kmクラスの水辺が広がっていたということになろうか。逆に尾瀬沼の未来の姿がここにあるのかもしれない。
鎌ヶ池は字のとおり鎌の形をしているが、鎌の背にあたる曲線は、かつての大きな沼の岸の一部だったはずで、そこから東に少し小高くなって槐(えんじゅ)の木が池岸に沿うように並び立っている。木枯れた槐ごしにレストハウスも見える。
このレストハウス側あたりからは、晩秋になると槐をすかして真っ赤な暮色に染まる鎌ヶ池の息を呑むような荘厳が舞い降りる姿に遭えることもあるという。
深田久弥は「霧ヶ峰」の項を次のように締めくくっている。

九月の初めずっと雨が続いて、ようやく晴れ上った日、原へ出てみておどろいた。一帯の緑は狐色に変っていた。高原はもう薄(すすき)の秋であった。
(深田久弥『日本百名山』No.62/霧ヶ峰)

f:id:cippillo:20181121093534j:plainf:id:cippillo:20181121093533j:plain

bunbun.hatenablog.com


マークした場所は駐車場。