いぬなきだむ。司書の湖。
「犬鳴村」が湖底に眠る。
犬鳴山は峠からは見えない。ただ、隧道にも峠にも「犬鳴」の名が与えられている。犬鳴隧道を越えて谷下に降りていくと、上からはまったく見えなかった集落に行き着いた。幕末の混乱期、万が一のときに福岡藩主が敵から身を隠すための邸があったと聞いてはいたが、そこが地図にも載っていない犬鳴谷の犬鳴村だった。・・
そんなフィクションを書いてみたくなる名前の力が「犬鳴(いぬなき)」にはある。実際、法律の及ばない犬鳴村にまつわる都市伝説も流布していたそうだが、ほんとうの犬鳴村はそんなことはなく、市町村合併を経て今はダムの湖底に沈んでいる。
ダム近くの犬鳴トンネルは、福岡最恐ともいわれるミステリースポットで、1988年の工員ガソリン焼殺事件の現場でもあるが、正確には新犬鳴トンネルではなく、旧道の方にある「犬鳴隧道」のことであり、現在は閉鎖されていて立ち入りはできない。
そんな周辺の事情や名前の迫力から、犬鳴ダムもミステリースポットとされてきた。怖くて何年も近づけなかったが、2016年、よく晴れた午前のさわやかな時間にアプローチ成功。
県道沿いの駐車場。奥は新犬鳴トンネル。
意外にも明るくて開放的な犬鳴ダム。
二車線でトラックも行き交う幹線県道から堰体を真正面から見ることができて少し拍子抜けした。ダム堰体こそ冷たく威圧感があるが、湖周路へも入口さえ見落とさないように気をつければクルマで「司書の湖」と名付けられたダム湖を簡単に一周することもできる。ところどころに見晴らし広場、イベント広場、駐車場があり、最奥部には「魚釣り広場」なるものも。
噂だけで何年も怖いと思っていた場所だったことも忘れ、湖畔のあずまやで昼寝までしてしまったのには、あとになってから驚いた。
堰体にあるクルマ止めの犬のデザインはちょっと怖いかも。
「司書の湖」の名の由来は、幕末の人物から。
「犬鳴」の由来と歴史。大蛇から主人を助けようと鳴き続けた猟犬を、誤って殺した男の言い伝えが悲しい。
堰体から200m区間、およびボート釣りは禁止。
ダム奥部。
マークした場所は魚釣り広場。