水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

姫逃池(島根県大田)

ひめのがいけ。
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物語性を感じさせるロマンチックな池の名と、恋占いの姫逃石。

神話の山であり、中国地方一若い火山でもある三瓶山(さんべさん)は、別名「石見富士」。この山は、魅力的な名を持つ三つの池、浮布池、室ノ内池、姫逃池を抱いています。
室ノ内池は山頂の火口内にある池で、飛ぶ鳥を落とすという「鳥地獄」をもち、浮布池は西山麓にある堰き止め湖。幅2mの布が浮いたように見える現象も見られる万葉集にも詠まれた水辺。
さて姫逃池ですが、三瓶山をはちまきのように取り巻く三瓶アリスライン(三瓶山高原道路・日本の道百選)沿いにあるビジターセンター(駐車場あり)から歩いて数分の場所にある周囲400mほどの池で、底には腐植物が堆積し浅くなっており県の天然記念物にもなっている数千本ものカキツバタ群落や浮き島も見られます。人の手が加わらないかぎり、遠からぬうちに湖沼としての一生を終えるでしょう。

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白いカキツバタと、紫のカキツバタ。

さて池の名と悲恋の伝説について。
古くから姫野ヶ池、姫沢の池といった別の呼び方もあるようなので、「ひめのが」という読みの「逃(のが)」は、伝説をもとに後から当てられた字かもしれません。ただ昔の漢字はそもそも当て字が多いので、音を中心に考えれば、「姫が逃れる」伝説が最初にあり、「ノヶ(のが)」と安易に当て字された可能性もあります。いずれの呼称にしても「姫」の字は共通しているので、ここで女にまつわる何かがあったことは確かといえそうです。
伝承では、お雪という名の長者の娘が山賊の略奪的婚活を受ける。お雪と恋仲だった若者が助太刀にやって来るも多勢に無勢。池のほとりで山賊と対決し、振りおろした太刀、一閃。あわやというところをよけた山賊の頭。刀は大岩をまっぷたつにしたが、山賊は怯むことなく若者を討ち池に蹴落とした。
これを見たお雪は若者のあとを追って池に入水したという。
池に咲く県天然記念物のカキツバタ。紫の花と白い花がありますが、紫はお雪さん、白は好男子の化身といわれております。しかしお雪さんなら、白の方が似合いそうな気もします。
若者の致命的敗因となった大岩ですが、今も池のほとりに立つ木のたもとに二つに割れた姿で鎮座し、「姫逃石」と呼ばれています。石の切れ目に小枝を落とし、途中で引っかかって下まで落ちなければ恋が成就するという恋占いの石として近年、存在感を強めている女子会にも人気です。
カキツバタの見ごろは5月中旬〜6月。

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池の前の草原は庭園のよう。ここにお雪の住んだ屋敷があったのだろうか。左に見える建物は県立の自然観察館。
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自然観察館と駐車場。姫逃池へはここで下車。
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三瓶山の三池 ver.2.0(2020年)


マークした場所は、島根県立三瓶自然館の駐車場。