水辺遍路

実踏・日本の湖沼 5,950湖

浮島の森(和歌山県新宮)

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市街中心部に残されたミステリアスな浮き島。

新宮駅から400m、市街地の中心部に太古の姿をとどめた不思議な森が残されています。一見すると一辺100mに満たない四角い森が池とドブにぐるりと取り囲まれているだけに見えますが、一帯が沼沢地だった1700年ごろに泥炭層が水に浮いて形成された「浮き島」だそうです。ドブに見えた水路はじつは島を浮かせておくために、島よりひとまわり大きい状態で保存された池だったんですね。
市街地の狭い路地を抜けていくと観光者用の駐車場があります。

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入場料金を払って中に入ると「順路」と記された看板と通路がありました。

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コンクリートで固められた水路は、ぎりぎりまで民家が迫っていることもあり、やはり市街地のドブのようにしか見えません。大小のブラックバスが泳いでいました。
「ブラックバスによる食害が心配されるような生物は沼にはおらず、島に直接害を及ぼすものではないが、天然記念物にはふさわしくない」(熊野自然保護連絡協議会の滝野秀二副会長)というコメントとともに2008年、地元紙・紀伊民報にこの池にブラックバスがいることが報じられましたが、いまだ駆除には至っていないようです。

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順路をたどっていくと、浮き島へと渡る橋を渡ります。

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島内部に足を踏み入れると、いきなり異空間。まさに原生林です。杉を主体に北方系植物と亜熱帯植物が混在する摩訶不思議な生態系が営まれており、国の天然記念物にも指定されています。

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この浮き島は昔から霊地とされ、弁当の箸を忘れたおいのさんという若い娘が箸がわりになる小枝を求めて島奥に入り込んだところ、大蛇に呑まれ底無しの穴に引き込まれたという伝説が残っており、現在も「蛇の穴」として残されています。10mもの竹竿を刺しても、ずぶずぶと入ってしまい地盤に届かないそうです。

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おいのさんの悲話は、『雨月物語』作者の上田秋成にインスピレーションを与え、美女に化けた大蛇に執拗につきまとわれる男の運命を描いた「蛇性の婬(じゃせいのいん)」に結実したということが現地のパンフレットに記されていました。「蛇性の婬」・・タイトルが魅力的ですが、内容もすごいです。眠れません。短編なのでいっきに読みました。文豪・谷崎潤一郎によって戯曲化もされ、時代は古いですが映画も製作されています。

眠れないほど面白い『雨月物語』妖美怪奇な9つの話 (王様文庫)

眠れないほど面白い『雨月物語』妖美怪奇な9つの話 (王様文庫)


とはいうものの、少し疑問に思いました。おいのさんの伝説と、秋成の「蛇性の婬」は「大蛇」「美女」が共通する程度で、中味はまったく異なります。

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鐘の中に隠れた安珍を、蛇の正体を現した清姫が焼き殺そうとするシーンは歌舞伎でも有名なクライマックスシーン。鐘巻由来図(道成寺蔵)

むしろ能や歌舞伎で有名な「道成寺」の安珍と清姫伝説の方にプロットの類似が強く、「道成寺」のルーツを探っていくと中世の説話集である『今昔物語』(巻14の3)、さらには海を越えて中国の四大民間伝説『白蛇伝』(はくじゃでん)にまで行き着きました。
一方、「蛇性の婬(じゃせいのいん)」も「道成寺」も舞台として新宮(熊野)が出てくる共通点があり、その方が浮島の森との関連性は強そうな気もします。
とにかく、「蛇」と「女」にまつわる伝承は日本各地に見られますが、そのルーツは海を越えて中国だったのかもしれないという可能性に驚きました。


中国・白蛇伝説の「西湖三塔記」(ウィキペディアより)
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池のようす
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マークした場所は駐車場