水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

睦沢ダム(千葉県長生)


ダムではないけどダムという。鉱毒対策とはいえ毒はない。

堰堤横の管理事務所には立派な案内板が立っていて、「睦沢ダム」と堂々と記されているし、現地近くにはあちこちに「睦沢ダム」の表記が見られる。
このダムは県が管理する鉱毒対策ダムということで、ダムの目的としてはとてもめずらしい。
鉱毒という言葉からは足尾鉱毒事件が思いだされるが、この対策のひとつとして栃木県の谷中湖などは洪水調節機能という表の顔とは別に、毒性物質を沈殿させる役割があったのではという説もある。北海道や東北の炭鉱跡地などにも有害物質の除去を目的とした沈殿池が見られた。

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また、川に流れ出した温泉成分のために強酸性になった死の川を中和させるために、貯めた水に石灰を混ぜてから放流する機能をもった群馬県の品川ダムのようなタイプもある。

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睦沢ダムは鉱毒対策とは記されてはいるが、その中味は農地対策である。
長生やいすみの一帯は地下に天然ガス資源が豊富で、工業採掘とは関係なく、自然に水分といっしょにあちこちで湧いたり噴き出したりしている。この水分が塩分やヨードを含むため、放っておくと土に蓄積されていってしまう。雨が降れば流れてくれる部分もあるのだが、日照りがつづけば塩分はどんどん蓄積され、塩害は深刻になる。
こんなときに農地に流して塩分濃度を下げる真水を貯めておくのが本ダムの役割。だから鉱毒対策とはいっても、貯めている水は清浄そのもの。同種のダムとしては県内に平沢ダムがある。

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そんな鉱毒対策について案内板を読みすすめていくうちに、「堤高H=14.5m」という文字が目に入った。日本における「ダム」の条件は堤高が15m以上である。わずか50cmではあるが足りないではないか。

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けっきょくこの理由で、ダム年鑑やダム便覧でも、ダムとして掲載していた睦沢ダムを2005年に削除したという経緯もあるようだ。
しかしそもそもなぜ睦沢ダムになったのか。また、ダムではなくてもダムと呼んではいけないのか。そんな14.5mの謎を考え込みながら現地をあとにした。あきれたことにダムや貯水池の写真を撮影するのを忘れていたようだ。よって写真はこの案内板の一枚だけである。