水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

四尾連湖(山梨県市川三郷)

【しびれこ / 神秘麗湖、志比礼湖】


首都圏からも日帰り圏内。手軽な天上の楽園。

外輪山にぐるりと囲まれた標高850mの山上湖。「ゆるキャン」など映画やドラマをはじめ、メディアで採りあげられることも増えて注目度は高まる一方の水辺である。
それもそのはず。首都圏から近いのに、天上の楽園という言葉がぴったり。富士五湖エリアにありながら、ややはずれの県道観光線のどん詰まりに位置するため、穴場的な雰囲気があるのも魅力のひとつだろう。

 

神秘の湖というほかない

流入河川も流出河川もなし!

湖周長1.2kmでほぼ円形の湖には、流入河川も流出河川も見あたらない。標高850mの山上に独立して鎮座し、周囲には類するような池もない。神秘。
一方、少雨の年は水位の低下に伴って水質の悪化も見られ、映画の聖地巡礼などで訪れる人が多くなったと聞いて心配していたが、現在も飛び込んで泳ぎたくなるような透明感が維持されていて、ほっとした。

水明荘内に展示された四尾連湖周辺の地形ジオラマ

微妙に謎な成因

外輪山はあれど、火山由来にあらず?

蛭ヶ岳の山肩に立地する天然湖。
コロッセウムのように外輪山にぐるりと取り囲まれたような地形のため、ずっと火口湖と思っていたが、違うと知って驚いた。

過去にはカルデラ湖説も

過去には専門家の間でもカルデラ湖説もとられていたが、現在では大規模な山体崩落によって生まれた陥没に水がたまった構造湖(陥没湖)という見立てのようである。

対岸側から見ても、奥の山斜面との間に、リング状の外輪山に囲まれていることが分かる

構造湖(陥没湖)で決着?

構造湖といえば琵琶湖や諏訪湖が代表例で、ややこしいことにカルデラ湖も含まれる。大きいものばかりかといえばそうでもなく、島原半島(長崎県)の白土湖のように四尾連湖よりも小さなものもある。
しかし地形をいくら見ても、どのような崩落によって四尾連湖のような流入河川も流出河川もない陥没湖ができるのかピンとこない。
今後、外輪山など歩いて空撮資料をもっとたくさん撮って検証してみたい。

bunbun.hatenablog.com

水の出入口は?

四尾連湖に行くたびに、流入河川と流出口を探しているが、いまだに見つからない。ふつうはちょっとした流れ込みの沢ぐらいあるものだけど、四尾連湖にはスキがない。
これだけ人が訪れるようになっても水がきれいなのは、それなりの量の水循環があるはず。うーん・・。いつも悩まされる。
徹底調査をしようと意気込んでのぞむが、楽園感につい惑溺。釣り、ボート、遊泳、飲酒に興じてしまい・・。



 

池伝説と湖名の由来

四つの尾をもつ龍神

八つの尾をもつヤマタノオロチならぬ、四つの尾の「尾崎龍王」といおう龍神が池ヌシ。
「四尾連湖」の名はそれにちなむ。ほか、「志比礼湖」(しびれのうみ)、「神秘麗湖」とも。これだけ異字があるのもめずらしい。
霊場「富士八海」のひとつに数えられる。

牛の頭を沈める雨乞い神事

池伝説に登場する池ヌシとしては、大蛇(竜)に次いで牛が多い。
もともとは竜が池ヌシであったここ四尾連湖でも、江戸時代ごろの伝説では池ヌシが牛になっている点で興味深い。
牛の頭(あるいは牛馬の骨)を湖底に沈めて雨乞いする神事も行われていたというが、いつごろまで?
以下、市川三郷町のオフィシャルサイトから。

四尾連湖は、昔から雨乞いの伝説がありました。
今から三、四百年前のこと。二人の兄弟づれの侍が湖に住む怪牛を射止め、兄弟も犠牲になったそうです。この年はひどい干ばつでしたが、兄弟の犠牲が通じたのか、間もなく大雨が降り出したといいます。それ以来、干ばつの時には、兄弟の墓に詣でて牛の頭を湖水に沈めて雨乞いを行ったと伝えられています。
(市川三郷町オフィシャルサイトより抜粋)


 

レジャーレイクとしての完成度

有料だけど何でもオーケーの寛容さ

遊泳、釣り、カヤック、SUP、貸しボート、ペット同伴、焚き火、バーベキュー、キャンプ、ロッジ、山荘、と・・水辺アクティビティのほとんどをカバーする勢いの池には、じつは、そうそうはお目にかかれない。
釣り禁止だったり、ペットがダメだったり、全国の五つ星の池たちのほとんどでも、惜しいところで何かが欠けている。
トイレと散策以外の多くのアクティビティが有料である点は大きな欠点かもしれないが、もしすべて無料だったら立地やキャパシティ的に環境の維持はのぞめない。そういった点で、かえってよかったと思う。

ほどほどのスケール感

近くにある本栖湖もレジャーレイクとして素晴らしいが、ボートでも強風に見舞われると戻れなくなったりするし、水深121mと聞けば泳ごうにもゾッとする。
その点、四尾連湖は歩いてよし、泳いでよしのサイズ感が絶妙なのである。

野営ライクで玄人好み

山荘、ロッジ、キャンプ場もあるが、オートキャンプ場のような利便性や快適なトイレとはほど遠く、野営本来の魅力を知る玄人好み。ゆるキャンならぬハードキャン。
駐車場から野営場まで、キャンプ道具をボートやカヌーで搬送。一輪車を借りて湖畔から運ぶこともできるが、ここはボートを借りての搬送で気分を高めたい。
人界を離れた満天の星が降り注ぐ水辺に流れる時間は何ものにも変えがたい。

釣り

過去には池ヌシというしかないほどの巨鯉がいた。山荘の壁に魚拓が掲げられているが、もはや昭和ロマン。こんな魚はもういないだろう。いや、あるいはひっそりと深い湖底に?
桜の時期にヘラブナ釣りで人気を博した時期もあったが、近年の釣り人はもっぱらバサーが中心。魚影は比較的濃い状態を維持しているがハイプレッシャーかつ20センチ前後が主体。
全周にわたって足場はよいが、キャンプ、カヤック、SUPなどさまざまなレジャー客が混在するので、人が多いとなかなか思いどおりの釣りにはならないだろう。それでも40オーバークラスはいる。
釣りには環境協力金400円が必要。

魚種・魚影と過去の釣況

2015年夏は水量、水質(透明度)ともに近年では最高の状況だったが、2016年は夏前半の少雨の影響が見られ水位が低く、水質的にも若干の濁りがあった。
ブラックバスは小型を中心に2015年ほどではないものの、ある程度の数が見られた。30〜45センチほどの魚体も若干数、確認できたが、これらの大きな個体は回遊せず一定の場所に居着く傾向が見られた。小型のオイカワなど見向きもしない。何を食べているのだろうか。

バタフライによる波動で飛び出す魚を目視しながら魚影調査する筆者(2013年)


2016年夏はベイトフィッシュのオイカワが大量に繁殖していたのが印象的だった。朝夕のフィーディングタイムには、浅場でオイカワを追う小型ブラックバスの軽い水音があちこちに立っていた。
四尾連湖の特徴として、水面に浮いている虫に対してブラックバスはいっさい反応しない。ルアーに対してもかなりシビアで、ミミズなどの生き餌に対しても慎重である。SUPからのテンカラ釣法でブラックバスは釣れたが、オイカワはチェイスするものの魚体が小さくてフッキングにいたらなかった。


ボート桟橋からヘラブナ釣り方式による釣査と、カヤックによる釣査を行う筆者(2011年)


特筆すべきは、これまで水泳とカヤックでの目視調査では20尾ほどのへらぶなの群れをひとつ確認した程度だったが、SUPによって広範囲が見渡せるようになり、岸から20〜50mの沖目に数十尾単位のへらぶなの群れが数多く確認することができた。全体では二百尾ほどだろうか。小型はおらず、30〜40センチの良型ばかりである。鯉と混泳する姿も見られたが、想像していた以上に魚影が濃いことが分かった。ただ、岸から長竿でも届く範囲ではなく、やはりノッコミ期以外に釣果を上げることは難しいことに変わりはなさそうである。


カヤックとSUPによる魚影釣査の様子(2013年からカヤック、2015年にSUPを導入)


2016年はこれらへらぶなの魚群が3〜4つのグループに分かれて西岸側の岸寄りに居着いていたのが意外な変化であった。
2013年夏に70センチほど減水していたときは山荘対岸側のシャローエリアの面積が著しく狭くなり、好ポイントになっていたアシ原も根元が露出する状態であった。減水の影響か、水質は悪化しており、透明度が低くなっていた。水面の泡がなかなか消えないところを見ると、キャンプ場等の界面活性剤の影響も考えられる。

やや沖目の表層を泳ぐヘラブナ魚群


2011年はブラックバスの魚影が濃く、特に朝夕のシャローではベイトフィッシュを捕食するライズが絶え間なくつづいたものだが、2013年夏にはシャローでのライズはほとんど見られなかった。2015年は活況で、2016年はフィーディングタイムのみライズが盛んになった。この時間をはずすとなかなか釣るのは難しそうだった。

2021年の魚影と釣況

岸では目視で大小のブラックバスを確認。釣れていたのは小型主体だが、岸には40クラスのスレバスの魚影も。
また沈木では居着きのニシキゴイ。ヨシエリアの近くでは岸から10mあたりに二つのヘラブナの魚群。いずれも以前より個体数は減少しており、自生サイクルが定着していない怖れがある。

デカバス。かなりふてぶてしい。

2022年の魚影と釣況

前年と同じく岸には40クラスの、あのふてぶてしいスレバスの魚影。同じ個体のようだ。しかしこの年はオイカワの存在感が強く、婚姻色をまとって繁殖行動をとるオイカワたちを目の前にしながら、ブラックバスは捕食行動をとらず共存しているのが印象的だった。
元気なオイカワたちは、現在のヌシと思われる大型の鯉が巡回してくると、いっせいにまとわりついていた。
また、例年なら沖目にいるヘラブナの二つの群れは岸寄りにいた。これはレジャーのSUPやカヤックも多く、居場所を追いやられている感があった。
以前より個体数は減少しており、幼魚の姿は確認できなかった。

バスとオイカワが並んで・・どちらかというとオイカワの方が威張っている感じ


倒木まわりに居着いたヘラブナの群れ


2023年9月

ここ125年で一番日本列島が暑かった夏、9月だというのに猛暑日が続く首都圏だったが、四尾連湖に到着すると30度に届いていない。さすがと思ったが、チョイ昔なら9月は寒くて泳がなかったような。
友人がブラックバスをワームで釣ったが、かなり苦戦したそうだ。目視では35センチほどのブラックバスが同サイズの鯉とランデブーでスクールしているのを確認。




 

ハイキング

蛭ヶ岳(ひるがたけ)

蛭ヶ岳(ひるがたけ)の登山口と登山者用駐車場、トイレが近い。

蛾ヶ岳(ひるがたけ)の頂上から見た四尾連湖

外輪山

外輪山だけのハイキングなら30分程度で手軽。ただし湖の眺望はない。


子安神社神楽

外輪山の一角にある。社殿は傾き、鳥居は倒れていた。

四尾連のリョウメンヒノキ

源頼朝の巻き狩りと因縁あり。


「尾崎龍王」の碑

外輪山への裏登山口にあたる。




 

四尾連湖の情景

湖上の霧(2016年)

早朝に湖上に立ちこめた霧が、夜明けとともにいっせいに吹き払われていった。

出艇前(2011年)

湖上の霧(2021年)


 

池合宿

2011年初夏

この年は3回、四尾連湖に行った。

2011年夏(2回)

湖畔を掘れば獲れるミミズでブラックバスがよく釣れたので、よその子どもたちまで集まってきて、釣り道場状態に。
この子たちも今は社会人だろうか。


2013年夏

減水で広い浜が出現した。




2015年夏

SUPと空撮を実施。



2016年夏

対岸側の野営地に幕営。

2021年夏

四尾連湖が人気になって五年ほど足が遠のいていたが、大雨とコロナ禍で人は少ないとのことだったので久々に。それでも昔に比べれば隔世の感。オシャレなカフェみたいなものまでできていてビックリ。
甥には身長も抜かれ、立ち船頭スタイルのカヤック操船も彼に託す。


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2022年夏

あいかわらず楽園の様相。



2023年9月

連休だったが、かなり早めに予約をしていたので何とか。今回からは私ではなく子ども世代が中心になった企画であり、孫を伴っての初の池遊び。四尾連湖愛は世代を越えて継承されつつある。



 

植物

水生植物と池畔の植物

外輪山で見つけたキノコ




 

案内板



 

Googleマップ