ひるさわおくいけ。大屋敷雨水貯留池。
無類の秘境感を漂わせる池名をもつ調整池。
綾小路澄江さんという名を目にしたら高貴で近づきがたい女性を想像するが、会ってみたら下町のおばちゃんだった。
そんな池が、この蛭沢奥池である。
新東名高速の浜松サービスエリアのスマートインター出口からわずか2km、浜松浜北ICからも3kmほどの立地にあり、池の南側と東側に二車線道路が通る。未舗装ながら堰体前の駐車スペースも広く、「奥池」という名がそぐわないほど抜群のアクセス性が保証された池である。
現地の案内板によると正式名称は大屋敷雨水貯留池で、溜め池を兼ねた洪水調節池とのこと。「蛭沢奥池」という凄味のある名前から、てっきりかつては人里離れた古い野池だったのだろうと思っていた。山を開き谷を蓋す最新スペックの高規格高速道路の開通によって、かつての秘境池も手軽な水辺になったというストーリーを勝手に妄想していたわけである。
でもじつは全国的にみればそういったケースは少なくない。
21世紀の日本では、新規道路建設では土地の買収費用や交渉が最大のコストとなっている。それなら人の住んでいない山と平地の境目ぎりぎりのところを、進歩した工法によって(工費はかさむが)、トンネル、橋、トンネル、橋の連続で通してしまえば、買収問題も最低限で済む。だから新しい高速道路では、橋脚がずっぽりと池に入っているものが多いのだろう。誰かの家を潰すのと違って、池なら誰も文句はない。さらに宅地化に伴って、雨水調整池の役割まで担うことができたのだから、この池の将来は明るい。
ともあれ2018年3月末の再探訪では、奥の道路側の自然護岸で竿を出している釣り人がいた。一見、へらぶな釣り師のように見えるが、わずか500m東には、釣り桟橋完備で無料のへらぶな釣り場である西ノ谷池がある。わざわざここで自分の釣り台を設置してまでやるのはなぜ? と、その孤高ぶりが気になってよく見てみると、いやはや釣り台を使っていない。
スノーピーク社製であろうか、土に突き刺すタイプの竿置きを使っている。鯉釣り師が使うのは見たことがあるが、へらぶな釣り師では今まで見たことがない。
わくわく、というか、なんかいいものを見たなあと思うと同時に、次はここで両ダンゴで竿を出してみようと思った。何が釣れるのだろう。2013年にスピナーベイトを通したときは何も反応がなかったが、あらたな楽しみを見つけた。
じっとこの池を見ていると、やっぱり下町のおばちゃんになる前の若き綾小路澄江さんの凜としたものを感じる。
マークした場所は運動公園入口。