水辺遍路

訪れた全国1万1,300の池やダムを独自の視点で紹介

明神池(静岡県沼津)

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知られざる絶景の里を守る池の神。

ここ井田之郷は、駿河湾に微塵の遠慮もなくせり出した奇形絶壁の山に両脇をはさまれた猫額の平地。この隠れ里の守り神のように、海からわずかに防風林をへだてて静かにたたずむ淡水の池は神秘というしかない。
成因は、砂嘴(さし)が入り江を塞いでできた海跡湖
周囲長650m、水深2mで、水源は湧水。
2013年に初めて訪れたときから、とんでもないアウラをまとった池だとは思っていたが、NHK『21世紀に遺したい日本の風景ベスト100』のラストシーンを飾ったと現地の掲示板で知った。
それでも北にビジュアル的に分かりやすいミステリアス池である大瀬神池が控えているので、やや割を食っている感じがしないでもないが、それが「知られざる日本一の絶景」と地元が謳う井田の郷の「知られざる」部分を守ってきたのかもしれない。
晴れている日には駿河湾のむこうに富士をのぞみ、稲穂を潮風が洗う。

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あまりにも魅力的な明神池の周辺地形。

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「池は入口と出口を探せ」のセオリーを嘲笑う難敵

上の写真。
お分かりだろうか。右側に見えるのは奥の水田から来ていると思われる水の流入口である。そのすぐ左に水門のようなものがある。これは取水口か。
つまり池の入口と出口が隣合っている。変だ。口の上に尻の穴があるような感じ。
そしてその左、ヤブに囲まれているが、ここにも水路がある。出口と思われるが、これが溜め池なら洪水吐があるべきだが、ただ水路がのびている。しかも水は動いていない。
まったく構造が分からない。

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なんと農業用に利水

井田の里に生きる人々は明神池の水を農業用水として利用しているという。
とはいっても海のすぐ横の池。どう見ても農地の方が標高が高い。
取水口のすぐ横にある小屋。公衆トイレかと思っていたが、これは明神池農業用水ポンプ場だった。
しかしここで水路は消失。ヤブの間から奥をのぞきこむと、あった!!
鋼管。
パイプで水を農地の高いところに置かれたタンク(配水池)へと送っているというのが答えだった。

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もうひとつの出口をたどる

排水処理場

農地を潤した水はやがて一巡して再び池へと帰ってくる。
おお、循環型、素晴らしいと両手を叩いている場合ではなくて、農地を通った水には過剰な栄養分だけでなく、あまりありがたくないものも含まれている。
海チカの池だけに、そんな水を海に流してしまうと漁業に影響が出るかもしれない。
というわけで、もうひとつの流れ出しの横には「井田浄化センター」という排水処理場が置かれている。
萌えポイントは「漁業集落排水処理施設」というサブタイトル。

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手前の流入口には水門の操作ハンドルも見える。奥の建物は排水処理場。


 

さらに水路をたどる

排水処理場を抜けた水路はさらにのびている。歩いてみた。水の方は動いておらず淀んでいる。
やがて海岸の土手をくぐるトンネルがあった。海側に出てみるとトンネル出口。
ちょろちょろと水が出ている。
これぞ明神池の水の出口に間違いない。

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でも水門はどこに?

しかし変ではないか?
明神池から出ている水路は水が動いていなかった。それなのに海岸の出口からは、チョロチョロ水が出ていた。
そもそも洪水吐も水門もなかった。なければ水路から池の水がダダ漏れになるはず。
謎だ。もう一度、水路をたどり直す。

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水門あった

何のことはない。海へと抜けるトンネル手前に水門があった。
逆流防止タイプ。
海が近いから高潮のときなど、万が一、水門を閉め忘れても海からの逆流を防いでくれる。こういった細部に、マニア魂がくすぐられる。
青いボックスは水門開閉を電動で行う制御装置のようだ。

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流入水路

明神池には山に向かって流入水路があるが、ふだんは枯れ沢になっており、水源としては弱い。他に水源があるはずだ。


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池の水源

湧水ということだが位置を突き止めたい。
池横の畑で農作業をしていたおじさんに訊ねてみると、水源を知っているという。畑の中から湧いているとか。案内してもらうと、ホントだ!
昔は水くみにも利用していた痕跡があった。
しかし、これ、おしえてもらわなければ絶対分からなかった。私有地内だし。おじさん、お仕事中に、ありがとうございました。

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生息魚類と、池の景物

初訪の際はブラックバス釣りの人やトンボ獲りの人を見かけたが、訪れる人は多くはなく、ひっそりしている。
というのも井田は平地がとても狭く、県道からは狭隘な道でアプローチするしかない。途中、民家の塀が迫り、驚くほど狭い場所もある。また、土地が少ないせいか海岸沿いにある観光駐車場は有料。池畔もかろうじて一台ほどの駐車スペースしかない。
池をのぞきこむと、毎度、鯉は確認できるが他の魚はまだ見たことがない。案内板によると、モツゴ、ギンブナ、ソウギョ、ウナギ、ゴクラクハゼが生息しているとのこと。
通常、明神池という神様の名が付く池での釣りは御法度だが、土地の人たちは子どものころはよく釣りをしていたという。
池の水面を水草が覆った時期もあったというが、草魚を放流するとみごとに草がなくなったという昔話も聞くことができた。

 

高所にあるはずのヤチボウズが!?

景観で特徴的なのは海側の岸を埋める異様な草の塊。驚いたことに、北国や標高の高い湿原などで見られる谷地坊主(やちぼうず)が、こんなところに!!
温暖な静岡県では唯一ということである。やはり謎すぎる!!

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谷地坊主の並ぶ海岸側の岸。


 

遊歩道

水上デッキ(浮き桟橋タイプ)と、池を一周する遊歩道がある。
一部は農地になっているので注意。

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水上デッキ。
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河津桜と鯉の魚影

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魅惑の地形

とにかく地形がすごすぎる。

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両翼の山腹を走る県道から見た明神池。晴れていれば海の向こうに富士山も。


 

池大明神

池から少し歩いた水田のかたわらに、その名も「池大明神」が祀られていた。沼津明神池にはどんな伝説があるのだろう。

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池大明神。


 

古墳跡

池の横から県道沿いの展望駐車場に向かって遊歩道を登っていくと古墳群が現れる。

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池へのアプローチ

集落へのアプローチ路は狭く、観光者用の駐車場は有料。お金をかけずにのんびり池参りをしたいなら、県道沿いの展望駐車場にクルマを停め、急斜面を下る遊歩道で池にアプローチする方法もある。

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案内板

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Google マップ

マークした場所は明神池を見下ろせる無料駐車場。


 

写真アーカイブス

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2019年初春。


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2013年夏撮影。